美人スパイ事件 モスクワの極秘指令、FBI入手が発端 「静かなる浸透」続く (1/3ページ)
2010.8.23 21:00
このニュースのトピックス:ロシア・CIS
ロシアの交流サイトに掲載されていたアンナ・チャップマン被告とみられる女性(AP=共同)
ロシアの交流サイトに掲載されていたアンナ・チャップマン被告とみられる女性(AP=共同)
「美しすぎるスパイ」として注目されたアンナ・チャップマン(28)らロシアのスパイ組織が米国で訴追された事件で、米連邦捜査局(FBI)が極秘に進めていた捜査の詳細が明らかになった。FBIニューヨーク支局スパイ対策部の訴追請求状をもとに、旧ソ連並みのスパイ大国復活を目指すロシアの諜報(ちょうほう)機関、対外情報局(SVR)と、FBIとの“暗闘”を再現する。
□政権への浸透工作□
《われわれはあなた方を長期間の任務のため、米国に派遣した。(架空の)学歴、(架空名義の)銀行口座を用意し、自家用車、そして家までも与えている。派遣された諸君全員は、重要な任務を完遂せよ》
FBIニューヨーク支局スパイ対策部の特別捜査チームは2009年、モスクワのSVR本部(通称モスクワセンター)から米国内のスパイに暗号で送られた極秘指令を入手していた。
「重要な任務」について極秘指令には、次のように記載されていた。
《米国において、国家運営に関与しうる政策集団を特定し、関係を発展させ、モスクワセンターに情報を送信することである》
10年以上の長期間にわたって米国に住み、人脈を広げて、国家の政策決定過程に関与できる人物を協力者に仕立て、情報を収集し政策を誘導する。これがチャップマンら今回摘発されたスパイ団の任務だった。
モスクワセンターからの指令を受けたチャップマンらは動き出す。FBIの監視下に置かれていることに気づかないまま-。
□微弱電波で接触□
2010年1月20日。ニューヨークのタイムズスクエア周辺のカフェに、バッグを脇に置いた赤毛の女が1人で腰掛けていた。チャップマンである。
約10分後、ワンボックスカーが店の前をゆっくりと通り過ぎた。FBIがひそかに設置した監視カメラが運転手の男の顔をとらえる。男は表向き在米ロシア領事館の館員だが、実際はSVRのスパイ指導官だった。
約2カ月後の3月17日。マンハッタンの書店にチャップマンが現れた。10分後、通りの反対側に、同じ領事館員が姿を見せる。チャップマンがバッグからパソコンを取り出し、スイッチを入れた。